鏡
──こんにちは、あなたは誰?
──こんにちは、私はあなたよ。
右手を上げれば左手を、左手を上げれば右手を。
彼女はいつも私と正反対のことをする。
なのに同じ顔、同じ声、同じ名前。
私だけの顔なのに、どうしてあなたは私の顔なの?
私だけの声なのに、どうしてあなたは私の声なの?
私だけの名前なのに、どうしてあなたは私の名前なの?
何から何まで同じの彼女。
時折、彼女は私に囁いて来る。
──今日は嫌なことがあったわね・・・どうしてあのまま黙っておくの?
──だって・・・あそこで私が何を言っても誰も聞いてくれないし、反感を買うだけじゃない。
ふいに、彼女の手が私の頬を触る。
──我慢しなくていいの。自分を隠さなくていいの。だって、私はあなたなのよ。
──いいえ、私は私よ!
──こっちの世界に来なさいよ。とても楽よ。辛い事なんて何一つない。
不適な笑顔が私に向けられる。
私の顔なのに、とても怖いと思った。
そして、どういうわけか逆らえないような気がした。
──辛い目にあわなくて言いの?
──ええ、もちろん。自由でいいわ。こんな世界他にないわ!
そういうと、彼女は私の手を引っ張ってきた。
ぐいぐいと私は彼女の世界へと引き込まれる。
初め私は、そのまま彼女の世界へと行こうと思った。
何の抵抗もなくただされるがまま。
でもふと、あることに気付き彼女に抵抗した。
それに対して、彼女は不思議そうな顔して尋ねてきた。
──どうしたの?どうしてとまるの?こっちはとても自由な世界なのに。
──私があっちに行ったらどうなるの?あなたはどうなるの?
──私?私はあなたの変わりにそっちの世界に行くの。私達は入れ替わるのよ。
彼女は私の腕を掴み、力任せに引きずり込もうとしてきた。
私は必死に抵抗してなんとか彼女の世界に行くまいとした。
でも、彼女の力はとても強く腕が痛くなってきた。
──痛い痛い!お願いだから離して!
──嫌よ!そっちの世界が嫌なのでしょう?なら取替えっこしましょう!こっちの世界は素敵よ!
──嫌!私はこっちの世界がいい!そっちの世界には何があるの!?私には孤独があるとしか思えないわ!
──だから自由なの!1人はいいわ。誰も私を傷付けない!誰も私を馬鹿にしない!
──でも!でも・・・寂しいのでしょう!?
途端に、彼女は私の腕を離した。
私はその反動で勢いよく尻餅をついた。
彼女を見ると目に涙が溢れ、震えた声でこう言った。
──あなたがそんな弱気で居るから!あなたがそんな悲しそうにするから!だから私は孤独なの!
私はあなたなの!あなたなのよ!一人で辛い思いをしてるなんて思わないで!!
私は、彼女の泣いている姿を見て見た事があると思った。
それもそのはずだ。だって、今目の前にある姿は紛れもなく私の泣いている姿なのだから。
あぁ、彼女はやっぱり私なのだ。心の私なのだ。
私はこんなにも・・・・こんなにも弱っていた・・・。
──ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。
私は彼女を強く強く抱き締めた。彼女の涙はとても冷たかった。
──もう・・・私にこんな思いをさせないで・・・。私の世界をこんなのにしないで・・・。
──約束する・・・約束するわ。
──私がいつもあなたの傍に居ることを忘れないで・・・。
それを最後に、彼女の姿は消えた。
私はそっと、胸を押さえた・・・。
◇あとがき◇
ひとまず短編です。
ふと思いついたように書いてみました。
自分の心とどう向き合うかっていう意味を込め書いたつもりです。
なかなか描写は難しい・・・もうちょっと研究します↓↓