序章
私には、小さいころから不思議なものが見える。
黒くて形がない『煙』。
それはいつも街中で見かける。
まだ知識のない幼い私は、友達や家族に「なんか黒いのが見えるよ!」といつも訴えていた。
家族に言えば、それは目が内出血を起こしているんじゃないかと言われ眼科に連れて行かれた。
もちろん異常はないと診断され、疲れのせいだろうと目薬をもらった。
友達に言えば、やはり年齢だけにそれは幽霊だという子が居た。
確認するべくお墓は勿論、怪談の話に出てくるようなところまで友達と行ってみたりした。
けれどもお墓に行っても怪談の話に出てくるようなところに行っても黒い『煙』は見えなかった。
しかし、街中に行けばまだ見えるのだ。
ずっとこの黒い『煙』はなんなのか・・・人生を送り22年目、ようやくその正体がわかった気がした・・・。
200X年9月。
私の名前は野中 瞳(ノナカ ヒトミ)。
現役バリバリの大学生。バイトやサークルで忙しい毎日を送ってます。
今の時期は大学は休みで、今日は友達とショッピングに来てます。
朝からだというのに人人人・・・どこもかしくも人で埋め尽くされていて、信号を渡るもの一苦労。
「瞳ぃ〜・・・私死ぬぅ〜」
「そんなことで死ぬなんて言わない!!ほらっ、行くよ!!」
人ごみの嫌いな友達の腕を引っ張り、掻き分けながら信号を渡る。
人を見るだけならいいんだけども・・・私は昔から不思議なものが見える。
他の人には見えていないらしくて、この22年間悩まされている。
それは黒い『煙』・・・どこから出ているのかもわからないし、なんで見えるかもわからない。
霊感って・・・やつでもなさそう。それは小学校の時に実証済み。
よく心霊スポットに連れて行かれたものです・・・あの時は本当に怖かった・・・。
幽霊ならお墓とかそういう場所で見るはずなのに、見れなかった。
人が一杯いるところだと見るの・・・正直今でもちらほら見えてる・・・。
あまり直視はしたくないから姿を確認した時点ですぐ視線を逸らしてます。
出来たら外出なんてしたくないけど、そんなことしたら引きこもりになっちゃうし友達とも遊べない。
何より普通の生活を送れない。こんなわけのわからない『煙』に人生を振り回されたくない!
22年間それでやってきたし・・・何とかなる!
「瞳ぃ〜〜・・・もういやぁ〜!!」
「駄々こねないの!!しっかりして・・・よ・・・」
友達の腕を懸命に引っ張り、歩く先を見詰める・・・。
私はやってしまった・・・いつもならこんな人ごみは下を向いて歩くのに、前を見てしまった。
今、大きな荷物を抱えた男性がこちらに向かって歩いて来る。
大きな荷物は重そうで、すごく必死な顔をして・・・その後ろには、黒い『煙』があったのだ。
不意に吐き気が襲う・・・。
「瞳大丈夫?顔色悪いよ!?」
足元がふらつく・・・。
「早く信号渡らないと!!」
引っ張られる腕が妙に痛い・・・。
「なんとか渡りきった・・・瞳大丈夫?」
過ぎ去る男性・・・・・・。
体が、一気に楽になる・・・。
「・・・あっ・・・ありがとう・・・人ごみに酔ったのかな・・・」
突如の吐き気に開放され、今まで経験したことがないことに驚きを隠せなかった。
なんとか息を整え気を取り直して行こうとした時・・・後ろで音が聞こえた。
一瞬聞こえたキキィーっという高音。
ドンッ!っという大太鼓を叩いたような低音。
ホラー映画には欠かせない人の叫び声・・・。
ざわめく人々・・・誰もが私の後ろで起こった状況を目にしている。
友達もその一人だった。今にも泣きそうで、手で口を覆っている。
私は見てしまった・・・その注目されている状況を・・・。
交通事故・・・。
先ほどの男性が乗用車に撥ねられてた。
血痕のついた大いに凹んだ車はあり、男性が持っていたであろう大きな荷物はぺちゃんこに踏み潰されていた。
人が群がり、男性を救出する。運転手も意識を失っているようで運ばれている。
人生で初めて交通事故に遭遇した。そして・・・初めて気付けた。
もう一度轢かれた男性を見る。
すれ違った時には見えていたのに・・・見えなかったのだ。
黒い『煙』が・・・。
† * † * † * † * † * † * † * † * † * † * † * † * † * † * †
* † * † * † * † * † * † * † * † * † * †
あの交通事故に遭遇して翌日。
久々にまともに見たせいだろう・・・私の頭は未だ混乱していた。
今まであの『煙』について何も考えようともしなかったし考えたくもなかった。
なのに今、私は必死になってあの『煙』の正体を付きとめようと
頭をフル回転させて考えている。
すれ違う男の人に見えた黒い『煙』
車に轢かれたその男性
その男性にはもう黒い『煙』が見えなかった
この3つの文が頭の中をぐるぐるぐるぐる回っている。
もうわけがわからない・・・。
私はただ出かける準備をし、昨日のあの事故現場へと向かった。
もう1度あの現場に行けば、何かわかるかもしれない。
そんな何の根拠もない思いつき──・・・。
現場に着いたとき、私は我が目を疑った。
なぜなら、あの信号のところに花が添えられていたからだ。
花だけではない、お酒やお菓子・・・果物の詰め合わせまで・・・。
今も丁度、その前にかがみ込み泣きながら拝んでいる女の人が居る。
「うぅ・・・どうして・・・どうしてなの・・・」
私は何かに引き付けられるかの様にその女の人の元へ歩いていった。
そして、何を聞くわけでもなく私は声をかえた。
「あのぉ・・・大丈夫ですか?ここは冷えます・・・。
体に毒ですよ?よかったらこのハンカチ使ってください」
そっと女の人にハンカチを差出し横へとかがみ込んだ。
女の人は私のハンカチを受け取り、小さな・・・振り絞った声でありがとうと言ってくれた。
「私の主人は・・・昨日この場所で・・・亡くなったのよ・・・。
車に撥ねられて・・・ちゃんと・・・信号を守っていたのに・・・・うぅ・・・」
「・・・・・・」
亡くなった──・・・
私はずっと・・・ただずっとその人の背中をさすっていた。
悲しみの叫びを聞きながら、ずっとっずっと・・・。
その時だった──・・・
吐き気が・・・襲ってきた・・・。
『・・・・だな・・・』
どこからともなく聞こえる声・・・。
足元がふらついて来た・・・。
『あと・・・5日・・・』
はっきりと聞こえるそれは・・・すぐ近く・・・。
確かめなくてもよかった・・・よかったのに・・・私は見てしまったのだ。
女の人の背後に現れた黒い『煙』・・・。
アニメとか・・・そんな次元や勝手な自分の想像でしかなかった。
大きな釜を持ち、真っ黒なフードを身にまとった『煙』は・・・まさしく・・・。
死神──・・・。
to be come soon──・・・